令和4年度研究発表会
開催場所:兵庫教育大学加東キャンパス「共通講義棟104.106.108教室」
・特別講演
日程:2022年12月4日(日)15時頃予定
江利川 春雄(和歌山大学 名誉教授)
「これからの英語教育のために過去から学び現状を問う」
すべての子どもたちに言葉を学ぶ面白さと楽しさを体験させ、平和で民主的な協同社会を担う主体に成長させたい。言葉の教育を、技能・道具主義に矮小化することなく、思考と感性を育て、人間の全面的な発達に寄与するものにしたい。そのために留意すべきことを、主に英語教育の視点から提案します。
まず必要なのは、歴史から学ぶこと。たとえば小学校英語教育は明治期から実践され、賛否両論を巻き起こしながら、明治末期には英語科が廃止されました。文法訳読よりも会話中心のコミュニケーション重視を主張する意見も明治期からありましたが、成功しませんでした。何が問題だったのでしょう。
また、英語教育と国語など他教科との連携や、学習者の主体性を重視する指導法も明治期から主張されており、今日に貴重な示唆を与えてくれます。
次に、教育政策の現状を問うこと。2021年度から実施された中学校の学習指導要領では、生徒が接する英語の語彙が倍増し、内容が一挙に難化しました。上位層に偏った「グローバル人材」育成策が、かえって英語嫌いを増やしていないでしょうか。生徒や教員へのアンケートも踏まえ、現状の問題点を探ります。
他方で、児童・生徒の主体性を重視し、協同的な学びを取り入れた授業改革がめざましい成果を上げています。実際の授業風景を交えながら現状を紹介します。
これからの教育にはデジタルやAI(人工知能)の活用は不可避でしょう。しかし、そこには落とし穴もあります。それを踏まえ、AIにはできない異文化理解や協同学習を取り入れた言葉の教育を提案します。
江利川 春雄(えりかわ・はるお)
1956年埼玉県生まれ。神戸大学大学院教育学研究科修士課程修了。広島大学で博士(教育学)取得。専攻は英語教育学、英語教育史。現在、和歌山大学名誉教授。日本英語教育史学会名誉会長。学びの共同体研究会スーパーバイザー。
著書に『英語教育論争史』(講談社、2022)、『日本の外国語教育政策史』(ひつじ書房、2018 *日本英語教育史学会著作賞受賞)、『英語と日本軍』(NHK出版、2016)、『英語教科書は<戦争>をどう教えてきたか』(研究社、2015)、『協同学習を取り入れた英語授業のすすめ』(大修館書店,2012 編著)、『受験英語と日本人』(研究社、2011)、『英語教育のポリティクス』(三友社出版、2009)、『日本人は英語をどう学んできたか』(研究社、2008)、『近代日本の英語科教育史』(東信堂、2006 *日本英学史学会豊田實賞受賞)、監修・解題『英語教育史重要文献集成 全15巻』(ゆまに書房、2017〜19)など。